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脂漏性皮膚炎

脂漏性皮膚炎(しろうせいひふえん)とは?
脂漏性皮膚炎とは、皮膚の新陳代謝(ターンオーバー)や皮脂分泌のバランスが崩れ、フケやベタつき、臭い、赤みが出る状態のことです。
犬や猫では、体質による「原発性」と、他の病気が原因で起こる「続発性」があります。

【 主な症状 】
□ フケが多い(乾いた白いフケ、またはベタベタした黄ばみのあるフケ)
□ 皮膚が脂っぽく臭いが出る
□ 赤みやかゆみ
□ 耳、あご、背中、脇の下、内股などに多い
□ 慢性化すると黒ずみや脱毛が見られることもあります
 
【 原 因 】 
脂漏性皮膚炎は、ひとつの病気というよりも、皮膚の代謝や皮脂のバランスが崩れている状態を指します。
原因は大きく「原発性(体質や遺伝によるもの)」と「続発性(他の病気や環境が関係するもの)」に分けられます。
 
🔹 原発性(体質・遺伝によるもの)
生まれつき皮膚のターンオーバーが早すぎたり、皮脂の分泌量が多いタイプです。
若いころからフケやベタつき、独特の体臭が見られ、慢性的に症状が続くことが多いです。
コッカー・スパニエル、ウエスト・ハイランド・ホワイト・テリア(ウェスティ)、バセット・ハウンド、シーズーなどでよく見られます。
この場合は、完治は難しいものの、定期的な薬用シャンプーや保湿ケアで十分にコントロール可能です。
 
🔹 続発性(他の病気や環境が関係するもの)
最も多いタイプで、ほかの病気が原因で脂漏の状態が引き起こされているケースです。
いくつかの代表的な原因は以下の通りです。
 
1,アレルギー性皮膚炎
犬アトピー性皮膚炎や食物アレルギーがあると、皮膚のバリア機能が弱まり、炎症やかゆみによって皮脂のバランスが崩れます。
その結果、フケやベタつき、皮膚の赤みが目立つようになります。
 
2,感染による脂漏
皮膚の常在菌である「マラセチア(酵母菌)」や細菌が、脂っぽい環境で増えすぎると、かゆみや強い臭いを伴う炎症が起こります。
これは二次感染としてよく見られ、症状をさらに悪化させます。
 
3.ホルモンの異常(内分泌疾患)
たとえば、甲状腺機能低下症では皮膚の代謝が低下し、乾燥やフケが目立つようになります。
逆に副腎皮質機能亢進症(クッシング症候群)では皮膚が薄くなり、ベタつきや脱毛が見られます。
 
4.栄養や環境要因
食事中の必須脂肪酸(オメガ3・6)の不足、ビタミンA・Eなどの欠乏、または脂質代謝の異常によって皮膚のバリア機能が低下します。
加えて、シャンプーのしすぎ、乾燥した室内、ストレス、紫外線なども皮脂バランスを乱す原因になります。
 
【 診 断 方 法 】(どうやって原因を調べるの?)
脂漏性皮膚炎は、見た目が似ていても原因がまったく違うことが多いため、
まず「なぜ脂漏が起きているのか?」を調べることがとても大切です。
そのため、診断では順番を追って少しずつ原因を絞り込んでいきます。
 
① 初期検査(まず最初に行う検査)
皮膚の状態を詳しく調べ、感染や寄生虫の有無を確認します。
これはほとんどのわんちゃんで最初に行う重要なステップです。
 
皮膚の細胞診(さいぼうしん)
綿棒やテープで皮膚の表面から細胞を採取し、顕微鏡で観察します。
「マラセチア(酵母菌)」や「細菌の増えすぎ」がないかを調べます。
→ 感染が見つかれば、それが脂漏を悪化させる原因になります。
 
皮膚掻爬検査(そうはけんさ)
皮膚を軽くこすり取って、顕微鏡で寄生虫(ニキビダニ、疥癬など)がいないかを調べます。
→ 見逃されやすいですが、慢性の脂漏の中に隠れていることがあります。
 
ノミ・ダニ対策の確認
ノミやダニの寄生、またはアレルギー性反応(ノミアレルギー性皮膚炎)が脂漏の原因になるため、
予防薬を定期的に使用しているかをチェックします。
これらの検査で、感染や寄生虫が関係していないかを最初に確認します。
 
② 二次検査(さらに詳しく調べるとき)
初期検査で明確な原因が見つからない場合、
アレルギーやホルモンの異常などを調べます。
 
除去食試験(食物アレルギーの確認)
新しいタンパク源(例:カンガルー・魚・加水分解食など)のフードを約8週間だけ与え、
他の食材を一切食べさせずに、皮膚の状態が改善するかを確認します。
→ 食物アレルギーの有無を最も確実に判定できる方法です。
 
血液検査(内分泌・代謝性疾患の確認)
甲状腺ホルモンや副腎ホルモンの値を調べ、
「甲状腺機能低下症」や「クッシング症候群」などのホルモン異常がないかを確認します。
→ これらの病気は皮膚の代謝を乱し、脂漏や脱毛を引き起こします。
 
③ 専門検査(まれな病気や体質を調べるとき)
すべての一般的な原因を除外しても改善しない場合、
原発性脂漏症や皮脂腺炎などのまれな病気を疑います。
 
皮膚生検(バイオプシー)
局所麻酔をして皮膚の一部を採取し、病理検査で細胞や皮脂腺の状態を詳しく調べます。
→ 原発性脂漏症、皮脂腺炎、角化異常などを確定診断できます。
 
感染・寄生虫 → アレルギー・ホルモン → 遺伝性疾患、という順で調べていくのが基本です。
原因が分かれば、治療方針(シャンプー・内服・食事管理など)を正しく立てることができます。
 
【 治 療 】
原因に合わせた治療と、皮膚の状態を整えるケアの2つを組み合わせて行います。
一度で完全に治る病気ではなく、上手にコントロールしていくことが大切です。
 
① 原因へのアプローチ
 脂漏はさまざまな病気に続発して起こることが多いため、まず「なぜ脂漏が起きているのか」を突き止めることが重要です。
 
・アレルギー性皮膚炎がある場合:アレルギー検査や食事療法を行い、原因物質を特定して避けます。必要に応じて抗ヒスタミン薬やステロイド、免疫抑制剤(シクロスポリン)、分子標的薬(オクラシチニブ、イルノシチニブなど)を使用します。
 
・マラセチアや細菌感染がある場合:抗真菌薬や抗菌薬を内服または外用で使用します。
・ホルモン異常(甲状腺機能低下症、クッシング症候群など)がある場合:内科的に基礎疾患を治療します。
 
・栄養バランスの乱れが関係する場合:オメガ3脂肪酸などの必須脂肪酸を補う食事管理を行います。
 
・体質的・遺伝的に脂漏を起こしやすい犬種の場合:継続的なスキンケアで症状を抑えます。
 
② 皮膚の状態を整えるケア(スキンケア)
 皮脂や角質の異常を整えるために、定期的なシャンプー療法がとても重要です。
皮膚のタイプや状態に合わせて、シャンプーの種類やその頻度を調整します。
 ・洗浄タイプのシャンプー:過剰な皮脂や汚れを落とし、ベタつきを抑えます。
・保湿タイプのシャンプー・コンディショナー:乾燥やフケを防ぎ、皮膚のバリア機能を整えます。
・抗菌・抗真菌成分を含むシャンプー(例:クロルヘキシジン、ミコナゾールなど):感染を抑える目的で使います。
 
シャンプーは症状の強い時期は週2〜3回、落ち着いてからは1〜2週に1回など、状態を見ながら調整します。
 
③ 皮膚の再生をサポートする治療
 ・必須脂肪酸サプリメント(オメガ3・オメガ6など)を補うと、皮膚のうるおいとバリア機能が改善されます。
・ビタミンA、亜鉛、バイオチンなどを補うことで、角質形成をサポートする場合もあります。
・保湿スプレーやローションを日常的に使用し、皮膚を乾燥から守ります。
 
④ 継続的な管理
 脂漏性皮膚炎は「完治」というより、うまく付き合っていく慢性的な皮膚の状態です。
季節や年齢、体調によって悪化することがあるため、定期的な再診とケアの見直しが大切です。
 
飼い主様のケアが治療の一部になりますので、シャンプーの仕方や皮膚の観察方法を一緒に確認していきます。
 
【ご家庭でのケアのポイント】
1. シャンプー療法を正しく行いましょう
脂漏性皮膚炎の治療で最も大切なのが定期的なシャンプーです。
正しい方法で行うことで、皮膚の状態を大きく改善できます。
ポイント:
・シャンプー前にブラッシングをして、毛玉やフケを取り除きましょう。
・シャンプーはよく泡立ててから皮膚全体にやさしくなじませ、しっかりとすすぎます。
洗い残しはかゆみや炎症の原因になるため、しっかりすすぐことがポイントです。
・乾かしは、手で水気をしっかりと落とします。吸収性の良いタオルを使用して、人が洗顔後にタオルで顔の水分を吸い取るように、ごしごしこすって拭かないように、優しく水気を取ります。この時に、体の大きさにもよりますが、1枚のタオルだけでふき取りを済ませようとするのではなく、2,3枚に分けて、水気を吸い取るイメージで行って下さい。
※ドライヤーを使用する場合は、皮膚に直接、風を当てずに、タオルを風と体の間に挟んで、皮膚が熱くならないように、そして乾燥し過ぎないように注意しましょう。
症状が落ち着いても定期的なシャンプーを続けることが再発予防になります。

犬のシャンプーのイラスト

 
2. 食事・栄養管理
皮膚の健康は、体の内側からも支えられます。
脂漏性皮膚炎のわんちゃんには、栄養バランスの取れたフード必須脂肪酸の補給が大切です。
ドライフードは、なるべく新鮮な状態で与えることを心がけましょう。
開封後は、空気や湿気でフード中の脂肪が酸化しやすく、風味や栄養価が落ちてしまいます。
また、長期間保存すると、カビの繁殖や変質の原因になることもあります。
開封後は2週間以内を目安に使い切るようにし、直射日光や高温多湿を避け、密閉容器で冷暗所に保管してください。
皮膚サポート用の療法食(皮膚のバリア機能を整える栄養素が含まれる)を活用しましょう。
オメガ3脂肪酸(魚油など)は、炎症を抑え皮膚のうるおいを保ちます。
おやつの与えすぎや、人の食べ物を与えることは控えましょう。
 
3. 生活環境の見直し
皮膚の状態は、湿度・温度・環境によっても変化します。
ポイント:
室内の湿度を40〜60%に保ち、乾燥や過湿を避けましょう。
寝具やタオルは清潔に保つことが大切です。週1回以上の洗濯を心がけましょう。
散歩や外遊びのあとは、皮膚を軽く拭いて清潔を保つと良いです。
香料や刺激の強いシャンプー、人間用製品の使用は避けてください。
 
 4. 定期的な通院・皮膚チェック
脂漏性皮膚炎は慢性的に続くことが多く、状態の変化を早めに察知することが再発予防につながります。
ポイント:
かゆみ、ベタつき、フケ、赤み、においなどの変化に気づいたら早めに受診しましょう。
治療中は、再診や皮膚の再評価を定期的に行います。
自己判断で薬やシャンプーを中止せず、必ず獣医師の指示に従ってください。
 
まとめ
脂漏性皮膚炎は、すぐに「完治」する病気ではありませんが、
適切な治療と日々のケアで、かゆみやにおいを抑え、きれいな皮膚を保つことができます。
飼い主さまのケアが、わんちゃんの生活の質(QOL)を大きく改善します。
困ったときは一人で悩まず、遠慮なく動物病院に、ご相談ください。
 
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